Bossa Nova Guidebook(Jun.2008)

 
 ボサ・ノヴァ・ガイドブックというブックレットが現在各所で配布されています。
 これ、とても良い本です。是非、ご入手下さい。
 特筆すべきことがいくつかあります。
 まず、巻頭で中原仁さんと伊藤ゴローさんと宮田茂樹さんが話し合っているのですが、これが面白いです。ひとつ「なるほど」と思ったのが、「ジョアン・ジルベルトがアモローゾのクラウス・オガーマンのアレンジを気にいっていないという説があるが」という問いに「ジョアンが気にいっていないならライブ盤にそのアレンジを使うわけないのでは」という答えです。そうですよね。どうして今まで気づかなかったんだろう、という気持ちでいっぱいです。
 もうひとつ、ランチ(石川敏明さん)という方の文章がとても素敵です。特にチタのアルバム評が最高です。「ああ、どうして自分にはこういうユーモアがあって肩の力が抜けた文章が書けないんだろう」と悩んでしまいました。この方の文章をもっともっとブラジル音楽関係で読んでみたいと思いました。

 ところで、私は「好きなボサノヴァ3枚」という依頼に下のような文章を書きました(たぶんこの本を入手できない方すごく多いと思うので載せます)。はじめはストレートに「ジョアンの3月の水」と「ジョビンのマチタ・ペレー」と「ヴィニシウスとカイーミのズン・ズン」にしようかなと思ったのですが、ジョアンとジョビンは他の人と重なりそうだからあえて「絶対に重ならないアルバム」にしました。
 あと、今みなさんがご覧になっている「ボッサ・レコーズ」の広告が入っているのですが、これがサンク・デザインの保里正人のデザインですごく素敵です。
 最後に、私(林)のプロフィール部分に私の似顔絵が掲載されているのですが、これは娘(現在某大学芸術学部で絵を勉強しています)に描いてもらいました。チェックしてみて下さい。←実はこれが本当は一番伝えたかったことでした。

astrud gilberto/the shadow of your smile
「ドリーミー」という言葉、日本語にすると「夢見心地な気分」ってところでしょうか。そんな「ドリーミー」という言葉はこのアストラッドのアルバムのためにあります。このアルバムを聴いているほんの30分弱の間、私達は本当に夢の中にいることが出来ます。春、まだ少し寒い朝。もう少し布団の中で眠っていたいのに目覚まし時計のベルが枕元で鳴っています。「ジリジリジリ!」。あなたはベルを止めその時計を手の届かない場所に投げ捨てます。今日は仕事なんか休んでしまおうと心に決め、夢の続きに戻ります。アストラッドが夢の中で「私を月まで連れてって」と囁いています。そしてあなたは夢の中でアストラッドと宇宙旅行に出かけてしまいます。

paulo bellinati & monica salmaso/afro sambas
1960年代初頭に詩人ヴィニシウスとギタリスト兼作曲家バーデン・パウエルが「アフロ・サンバ」と呼ばれる一連の楽曲群を作りました。これらはバイーアというアフリカの文化や宗教が色濃く残っている地域をテーマにした音楽でしたが、バーデンは実際にはバイーアに行ったことがなく、レコードと詩人の話から得た情報だけで作曲しました。そんな40年前の「架空のバイーア音楽」を現代サンパウロのパウロ・ベリナッチが再解釈する訳です。サンパウロは南米最大の大都市で若者はテクノやヒップホップなんかを普通に聞いています。バーデンもパウロも東京のボサノヴァ・アーティストと似た条件ですね。で、そんな条件のこの音楽がとても美しいんです

nara leao/meus sonhos dourados
一時期ブラジル人をつかまえては「あなたにとってボサノヴァってどんなイメージ?」と質問ばかりしていたことがありました。質問の相手は例えばシャーデーとケニーGが好きな高校で仏語を教えている女性、U2とREMが好きな日本で勉強している男性、ボブ・マーリーが好きなアジアを放浪している男性、といった私たちの言葉が通じる普通のブラジル人達です。彼らにとってボサノヴァ、そしてナラ・レオンは森山良子や加藤登紀子のようなイメージです。ブルジョワなのに左翼でブラジルの民衆の歌を取り上げるけど結局お嬢さん枠から出られない感じです。で、このアルバムはナラのそんなブルジョワ感がすごく出ています。これがボサノヴァです。

 

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